Basso Continuo's Music Page
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バッハ嫌いにはなにやら 物騒なタイトルかもしれませんが(^^)・・・ 私はバッハの器楽曲が大好きです。 なかでも、 「インヴェンション」は、 私のような、 テクニックのない人間にも無限の楽しみを与えてくれます。
ところで、 ピアノを弾かれる人の中で、 「バッハのインベンションが大好き」という人は、 どうも、 必ずしも多くないようです。 また、 現在、 バッハに抵抗無く接することが出来るという人も、 インヴェンションを初めて習ったときには面食らった、 という人は多いようですね。 インヴェンションは現在専ら 初心者のためのピアノ練習曲集の地位を 占めているように思われます。 「私、インベンションはもう習い終わった」 といわれるかたもおられるかもしれません。
ところでバッハはこの曲集を発行するに際して、
クラヴィーアの愛好家、とりわけ学習希望者が (1)2声部をきれいに演奏するだけでなく、 さらに上達したならば、 (2)3声部を正しくそして上手に処理し、 それと同時に優れた楽想(Inventiones)を身につけて、 しかもそれを巧みに展開すること、 そしてとりわけカンタービレの奏法を習得し、 それとともに作曲の予備知識を得るための、 明瞭な方法を示す正しい手引。
(「インヴェンションとシンフォニア (ウィーン原典版No.42,音楽之友社)」 の 「まえがき」から引用)
という序文をつけています。
ここには「初心者」という言葉が一度も出てきません。
インヴェンションは単に初心者のみに向けられた曲集ではない、
ということだと思います。
実際、
バッハはインヴェンションを作るに際して、
音楽的に決して「手を抜いて」いません。
そのことを示すために、以下の2つの楽譜を示します。
まず、 最初の楽譜、 これはバッハの「オルガンソナタ第6番」の最後の楽章です。 バッハのオルガン音楽の中でも 最高傑作とされているジャンルです。
こんどはシンフォニア(3声インヴェンション)の
第8番です。
原曲はピアノ用の2段の楽譜ですが、
敢えて3段で書いてみます。
主題のやりとり、 模倣の行い方、 低音の動き等、 書法が 「オルガンソナタ」と全く同じであること、 直ちに知られると思います。 現在は専ら初心者用との教材のごとく扱われる 「インヴェンション」、 しかしバッハはオルガン曲と全く同じ態度で 作曲していることがおわかりかと思います。 他にも「インヴェンション」には、 組曲の舞曲楽章、 フーガ、 ソナタ、 協奏曲などの要素がてんこ盛りに盛り込まれています。 その音楽密度の濃さは、 他に類例を求めるのが困難なほどです。
また、この序文をみると 「作曲行為」 と 「演奏行為」 が 極めて密接に結びついているのを知ることが出来ます。 考えてみれば、 いろいろな音楽のジャンルの中で、 現在のクラシックほど 「作曲」と「演奏」 が分離してしまったジャンルは珍しいような気がします。 バッハの当時は鍵盤を弾ける人は 作曲法に通じているのが当たり前でしたし バッハの息子が著した「正しいピアノ奏法」でも、 後半は通奏低音奏法の説明に費やされています。 これは現代の「和声学」に相当する物です。
現代のクラシックは 「作曲も演奏も1人でこなすことできる」 ほど単純、 小規模な物ではないのかもしれません。 しかし、 作曲にも演奏にも通じた過去の作曲家が こしらえた名曲を演奏するに際して、 作曲能力が欠落していた状態で良い演奏が出来るとは、 私には到底思えません。
「インヴェンション」の場合には、 作曲の能力がそのまま演奏能力に直結する様な気がします。 「1番」にしたって、 曲の構造への深い洞察がなければ 単なる無味乾燥な演奏になってしまうでしょう。 なにしろあの曲、 ぼんやり眺めていたのでは、 1つ1つの音の強弱を どうつければよいかのアプローチが 全く見えてこないのです。 ところが、 詳細に眺めると、 単にこの曲をどう演奏すればよいかの糸口だけではなく、 古典音楽の作曲の基本要素が 凝縮して詰まっているのを知ることができます。 そんなわけで、 日頃作曲に縁のある人はもちろん、 作曲に縁のない人にも、 インヴェンションは必須の作曲トレーニングの教材、 時々思い出したようにこの曲集に帰ってくるのは、 とても有効なことだと思います。
というわけで、(どういうわけだ?)インベンション第1番の 「楽曲分析・大解剖」(^^)を、 後ろのほうで行っています。 みなさま、是非ご覧くださいませ (なぁんて、大したことは書いてなかったりする(^^;))