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くたばれ絶対音感(^^;)

いささか刺激的なタイトルをつけてしまいました。 最近時々巷で話題になる、 「絶対音感」の話です。

「絶対音感」とは、 「目の前で音を鳴らされたときに それが何の音であるかを当てる能力」 です。 幼い頃からピアノを 集中的に習ってきた人の中には、 この「絶対音感」を持っている人が多いようです。 かくいう私も、全くの準備作業なしに、 鳴らされた音の音名を当てることができます。 これはおそらく 「絶対音感」 というものの範疇に 属するのでしょう。 世の中にはもっと 精度の高い音感を持っている人がいるようで、 440HzのAの音と 442HzのAの音を聞き分けられる、 という人がいるそうです。

で、この「絶対音感」ですが、 確かにこれを所有していると、 周りに何の楽器もないときに音程がとれる というのは便利なのかもしれません。 合唱とかの練習の時に自慢できます(^^)。 「おお、 あいつはキーボードとかで音取りをすることが ないのに ファのシャープの音を完璧に発声できる」 といった具合(^_^)です。

ただ、 実際に 「絶対音感の所有」 自体で自分の音楽生活が豊かになったかどうかは、 私には何とも言えません。 ピアノで身につけた絶対音感では 苦労することも多いのです。

(1)古楽が安心して聴けない(笑)。 ご存じのようにバロック以前の古い時代には、 音のピッチが今よりも約半分ぐらい低い音程が一般的でした。 ピアノ一筋で生きてきて身につけてきた絶対音感は、 こうした「古楽」を行う場合には、 全くの邪魔者です。 私も当初は古楽演奏は全くなじめなかったのですが、 最近はどうやらニ長調(D-dur)の古楽演奏をD-durとして 聴くことができるようになってきました。 昔はどうしても嬰ハ長調(Cis-dur)に聞こえて、 気持ちが悪かったものです。

(2)「純正律」の認識が困難になります。 これについて説明する前には、 まず、 「純正律」「12等分平均律」について 簡単におさらいしておく必要があります。

「純正律」とは、 和音の響きが最も美しくなるような音律のことです。 具体的には、 完全5度(ド~ソの間の音程) の振動数比が2:3, 長3度 (ド~ミの間の音程) の振動数比が 4:5となるように調整された音律です。 純正律で構成された和音は此の世の物とも思われない、 天上的な響きがします。 振動数比が簡単な音が同時に発生されるため、 お互いに共鳴が生まれるのですね。 最も綺麗に響く「純正律」では、 ドミソの和音の振動数比は、4:5:6になります。

一方、 ピアノは「12等分平均律」で調律されています。 これは1オクターブを12等分し、 それを「半音」と定義する調律方法です。 12等分平均律では、 半音の振動数比は 21/12(2の12乗根)=1.059... となります。 「ドミソ」の振動数比はおよそ 4:5.04:5.99 という具合になります。 数字で見るとわかりにくいのですが、 ミの音は半音の13%ほど純正律よりも 高い音に なっており、 「ソ」の音は、 半音の2%程、 純正律よりも低い音が鳴るのです。

あらゆる調での演奏を想定し、 かつ、 音程をコントロールすることができない 「ピアノ」 のような楽器では、 純正律を実現することは不可能なのですね。 12等分平均律は、 これを解消するために 「美しい響き」 を多少犠牲することで考案された調律法なのです。 ピアノの響きは実は 「濁った」 響きなんですね。

幼い頃からピアノで慣れた人の耳の音感は どうしても12等分平均律に準拠してしまいます。 恐らく私の耳もそうです。 このため、 合唱、 合奏などで 「自分で音程を作り出す」 必要に迫られた場合に、 どうしても 「ハモる」 ことができない、 という事態が発生してしまうのです。 あるパートが 「ド」 の音を出し、 自分のパートが 「ミ」 の音を出すとき、 私が頭の中に想定する 「ミ」 の音は、 恐らく正しい音程よりも13%高い音なのです。

独断のそしりを受けるのを恐れずに申し上げるなら、 ピアノ一筋で行ってきた人は、 12等分平均律ベースの絶対音感を持っている割に音程、 特に 「ハモり具合」 に関しては鈍感です。 ピアノという楽器が複雑になりすぎて、 楽器の調整を行う人間と 演奏家とか 完全に分離してしまったことと 無関係ではありますまい。 かくいう私もその1人です。 こればかりは無伴奏合唱や合奏などを経験して真の 「ハモり」 を経験する以外に手はありません。

「絶対音感」 があると確かに便利なのかも知れません、 「絶対音感」 を持っていない人は 持っている人にあこがれるようです。 しかし、 古楽を受け入れる際、 或いは、 合唱で周りの人と 「きれいにハモるようにする」際などには、 12等分平均律に基づく現代ピアノピッチの絶対音感はむしろ邪魔。 私は自分の体に染みついた 絶対音感を打ち消すのに大変苦労しました。 私は「絶対音感」よりも、 「相対音感」を磨くべきだと思います。 相対音感とは、 「ある特定の音を与えられたときに、 その音に対して、 指定された音程の別の音を認識/発音する能力」 です。 精度の高い絶対音感を身につけることは 必ずしもプラスではありませんが、 精度の高い 「相対音感」 を身につけることは間違いなくプラスだと思います。

(1999.Feb.28)

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