Basso Continuo's Music Page
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ええと柳の下のドジョウを狙って大解剖シリーズ第2弾です(^^;)。 今回は、 インヴェンションの2番をクローズアップしてみます。
この曲は「カノン」ですね。 「カノン」というのは、 ある声部がでてきたのを、 遅れてでてきた他の声部が 寸分違わず同じ音で正確に追っていくものです。 「パッヘルベルのカノン」 という有名な曲を思い出された方もおられるかも知れませんが、 アレもそうです。 アレはもともと ヴァイオリン3本と通奏低音のために書かれた曲で、 3本のヴァイオリンが 2小節ずつずれて正確に同じ旋律を奏でていくのです。
ただ、単純に同じ旋律を ずらして繰り返して行くだけではどうしても無味乾燥、 あるいは、 わけがわからん、 という状態になってしまいますよね。 そこはさすがバッハ、 インヴェンション2番ではちゃんと「仕掛け」があるのです。 今回はその「仕掛け」を見てみましょう。 そして、この「仕掛け」によって、 「呈示-展開-総合的終止」 という曲の流れ(これについては、 「大解剖!インヴェンション1番」で説明しました) がどのように実現されているかを見てみようと思います。
まず、この曲ですが、 おおよそ、 以下のような構成です。
第2部は第1部の左右を逆転し、 5度上の調でくりかえしているものです。 第3部はコーダです。
第2部は第1部の正確な繰り返しですので、
第1部の徹底解剖が曲の理解の鍵になります。
さらにこの曲は「カノン」ですので、
両方の手は全く同じ動きをします。
そこでまず、
第1部、
1~10小節の片方の声部
-右手-
を徹底的にしらべてみましょう。
全体の構成はこれでおよそ把握できるでしょう、
というわけで、
まずは以下の楽譜を見てください。
インヴェンション2番の前半10小節を右手だけ示しました。
徹底的に、 と言いつつ、 実は各段の右側に付いている英語を読んでもらえれば 説明は終わってしまうのですが(爆) そうも言ってられないので説明を致します。
連綿と続くこの旋律がおよそ 2小節単位で区切られることは 皆様も直感的にお分かりでしょう。 特に出だしの(1)~(2)小節の旋律は大変印象的で、 我々の耳に残ります。 この旋律、 曲の最後である第3部にも再現し、 「主題(Theme)」と呼ぶことができるでしょう。 重要なポイントは、 (5)~(6)、 (9)~(10)の旋律が 実はこの 「主題」 の系列に属する旋律だと言うことです。 その実態は以下の通りです。
(1)~(2)と(5)~(6)は半分近くが同じ音。 さらに(5)~(6)と(9)~(10)は 旋律の要になる音を共有しています。 これに対して、 (3)~(4)や(7)~(8) は 純粋に 主題に対する 「対旋律(Counterpoint)」 として発生したものです。 すると、 (1)~(10)間での曲の流れは以下のような図になりますね。 赤系の色は主題及びその変形を示したものです。
「カノン」という枠の中で主題が徐々に徐々に変形・ 展開されてゆく流れが見てとれると思います。 なお、 調については、c-moll(ハ短調)なんですが、 5小節目でさっさと平行調Es-dur(変ホ長調)に転調し、 後はずーっと変ホ長調です。
こうして10小節目まで来るわけですが、 私はこの10小節目付近が1つのクライマックスだと見てます、 というのは、
11小節からは第2部です。 今度はg-moll(ト短調)で左手に主題が演奏され、 これをきっかけとして行左手が先行する カノンが開始され、 第1部が繰り返されて行くわけです。 ここの第1部と第2部の接続部分の書法も手が混んでいます。
まず、左手で始まる旋律は最初の音が変化され、 先行するEs-dur(変ホ長調)の色彩をまだ残しています。 更に、 左手が主題を演奏しているとき、 右手は綺麗な対旋律を演奏し、 まるで右手が主導旋律になったかのような錯覚さえ与えます。 第2部開始を告げる左手の主題はむしろ 「その存在を隠しながら」 開始されるのです。 したがって、 第2部の開始は若干「曖昧」にされています。
第2部開始の時の右手の旋律は g-moll(ト短調)のかなりはっきりした終止感を持つ旋律に なっています。 一方、 すぐ後に続く主題の音域は、 直前の旋律に比べると約1オクターブ低く、 印象的に響きます。 このことと、 2小節前の左手で呈示される主題が はっきりしないことを合わせると、 あたかも第2部の開始がこの13小節からであるか のような印象を与えます。
恐らくこの部分が
作曲家バッハの腕の見せ所だったのではないでしょうか。
私が、
ここが「頂点」だと思う理由は、
これ以降の第2部の音域にあります。
第13小節で冒頭で右手がストンと1オクターブ下降して以降、
20小節当たりまでの間、
音域はかなり低めです。
まるで11~13小節で見せたパワーの「余韻」で進行し、
最後のクライマックスに備えて充電
(?)
しているが如くなのです。
第1部の正確な繰り返しは20小節までで終わり、 21~22小節は、 最後へ向けての盛り上がりを準備する経過句です。 21小節は220小節の左右転回、 そして22小節でこれはもう一度転回されます。
ここで注意したいのは22小節左手の下降音階です。 これで一気に主調c-moll(ハ短調)に復帰すると共に、 両手の間隔が急速に開いていくことにより、 一気に緊張感が高まります。
23小節から始まる第3部は、 主題の再現、 および、 終止の意味を併せ持っています。 この部分はもはやカノンではなく、 主題、 そしてそれに対位する旋律(3~4小節の右手) の再現なのです。 さらにこの部分が最後のクライマックスであることも注意して下さい。 どんな演奏家でもここはf(フォルテ) にしたくなるでしょう(^^)
この曲の構成は、私には以下のように思われます。
結局、 「呈示」 「展開」 「総合的終止」 という原理がこの曲にも用いられていることが分かります。 カノンという制約の中にこれだけのストーリーを組み込むことで、 単なる「カノン」の枠を超えた 深い音楽的内容の獲得に成功しているように思われます。
※文中の楽譜は "MusicTime Deluxe for Windows 3.1 and 95"((C) 1996 Passport Designs Inc.)にて作成したものを ビットマップ化したものです。