Basso Continuo's Music Page
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ええとこの 「大解剖!インヴェンション」の記事、 一部(のみ?)に 「シリーズ化してくれ!」とご要望が高いようです。 皆様、 御声援どうもありがとう御座います(^-^)。 なかなか皆様のご希望のように進捗できず、 全曲を大解剖しきれるかどうかは何とも言えないのですが、 なるべく、続けていきたいと思っています。
さて、 今まで、 1番、 2番と我流に大解剖してきました。 当然今度は3番かと思いきや、 期待を裏切っていきなり15番です。 なぜいきなり15番に飛ぶか? その理由から説明しようと思います。
みなさま、 バッハの「平均律」ご存知ですよね? 24個の調のプレリュードとフーガをならべた曲集で、 ピアノ音楽の旧約聖書とまで いわれている曲集です。 バッハの対位法の技、 フーガの技法をこれでもかこれでもかと使い尽くした曲集です。 「インヴェンション」 および 「シンフォニア(3声インヴェンション)」は、 この「平均律」の 予備段階の教材として扱われることが多いと 思うのですが、 「フーガの手法の会得」という面から見ると、 これは大変理にかなっているのです。 そこで、 ちょっと視点を変えて、 「インヴェンション」を、 この「フーガの殿堂」である 「平均律」の準備に用いるのが如何に理にかなっているか、 それを見てみましょう。
すでに、 「大解剖!インヴェンション1番」で、 インヴェンション1番の冒頭2小節が 「主調-属調」 という動きを示し、 これがフーガの 「主題-応答」 という動きに 対応していることをお話しました。 このように、 インヴェンションは 最初からフーガに用いる構成原理と同じ原理を用いて 作られているのですが、 さらに見ていくと、 3番(Es-dur:変ホ長調)で、 よりフーガ的な構成の曲に出会います。 インヴェンション3番は幾分杓子定規な印象の曲ですが、 主題、 応答(主題提示後に別の声部で属調で示される主題旋律)、 対旋律、 間奏部分を一応備えています。さらに進んでいくと、 インヴェンション10番(G-dur:ト長調)の最初の3小節、 小規模ながらフーガの出だしと同じ書法です。 さらに11番(g-moll:ト短調)は応答が属調でないのですが、 全体の構成はかなりフーガに近いものです。 さらに、 12番は3番と似た構成で、 主題・応答・対旋律を完備しています。 このように、 曲集の後半に行くにしたがって、 次第にフーガ的な曲が増えていき、 学習者は自然にフーガの書法、 フーガを作る根本原理というものを 会得できるようになっているのです。
こうした流れの結論的な位置に15番があります。 1番から14番まで学んできた学習者に 「じゃあ、 そろそろ本物のフーガを・・・」 という需要が出たとします。 15番はこの需要に十分こたえています。 したがって、 インヴェンション15曲の 「ゴール地点」 としての15番を この時点で取り上げることは、 はなはだ意義のあることだと思うのです。
このように書いてきた15番はどのような曲か?
ずばり「2声のフーガ」です、
と言うと言い過ぎかも。
でも、曲はきわめて厳格な2声フーガの構成によっています。
次の楽譜をご覧ください。
最初の2小節の左手の単純な伴奏を取り除いてみました。 おわかりでしょう? これはどうみても完全に2声のフーガの出だしです。 最初の2小節の右手に呈示される旋律が、 いわゆる「主題」「主唱」(Dux)です。 これは直ちに左手で「応答」(Comes)によって受け取られます。 この間に右手は 「対旋律」(Counterpoint)を演奏しています。 これは2小節後に左右交換されます。 このように、 インヴェンション15番の構造は2声フーガなのです。
このインヴェンション15番の「フーガ主題」、 これと源を同じくするテーマを用いて、 バッハが数々の優れたフーガを残していることも、 見過ごしてはならないことです。
最初がインヴェンション15番。 2番目は「平均律第1巻」の第2番に出てくるフーガです。 主題の冒頭音形が同じであるだけでなく、 主題そのものの雰囲気まである程度似ています。 3段目は平均律2巻の最初のフーガ。 さらに、 このフーガ主題が現れるのは鍵盤曲だけではありません。 4段目は、 無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番の第2楽章に出てくるフーガ。 インヴェンション15番は、 こうした「傑作」と源を同じくする主題を用いて フーガを構成しているのです。 「バッハの本格的なフーガに出会う最初の一歩」に、 実にふさわしい曲であると思います。
それではここで、 フーガの構成要素についておさらいしておきましょう。 フーガは大きく分けて2つの要素からなります。
(1)呈示部(exposition)
フーガ主題を各声部に提示する部分です。 特に、最初の呈示部では主題(Dux,主調による主題旋律) 応答(Comes,属調に移調された主題旋律)が 各声部に順に導入されます。 2声のフーガの場合には、最初に単線で主題が奏され、 次にもう一方の声部で応答が奏されることになります。 応答が演奏されるときには、 最初に主題を演奏した声部は対旋律(counterpoint)を演奏しています。
(2)嬉遊部(episode)
2つの呈示部の間にはさまれた、 主題旋律が出現しない、 間奏的な部分のことです。
これをふまえて、 インヴェンション15番を見てみると、 以下のような構造を持っていることがわかります。
この構造を認識しておくだけでも、 ずいぶんアプローチが容易になります。 第1部と第2部はまったく同じ小節数で、 どちらも「主題-応答」のやりとりで開始されます。 一方で、3箇所に現れる「呈示部」のうち、 第1呈示部は主調による主題呈示、 第2呈示部は並行長調による主題呈示、 第3呈示部は再び主調による主題呈示、 という具合に調的な色彩を持っており、 これは「呈示-展開-終止」という、 「楽曲構成の根本原理」を踏まえたものです。
第1呈示部では、 右手に主題が提示され、 ついで、左手に応答が示されます。 左手が応答を演奏している間、 右手は対旋律を演奏しています。 この対旋律は、 以後の主題に必ず対位しています。 半小節の間奏の後、再び右手に応答が呈示されます。 最初の呈示部で「声部数+1」個の主題を提示するという例は、 平均律第1巻No.8(dis-moll:嬰ニ短調) 第1巻No.19(A-dur:イ長調)No.21(B-dur:変ロ長調)など、 バッハのフーガに時々見られる手法です。
第1嬉遊部では、 右手が16分音符の連続した形を示し、 一方左手は8分音符の連続です。 最後の小節でこれは逆転します。 ここの構造、 とくに第7小節は呈示部と嬉遊部の接続部分として、 なかなか「味のある構造」をしています。 楽譜を示します。
一見(一聴?)したところ、 嬉遊部開始の第7小節後半で 右手に一瞬現れる主題冒頭音形が目立ちますが、 楽譜に示したとおり、 実はこれは直前の部分の左右転回です。 第7小節の前半は、 主題の旋律の終わりであると同時に、 次の部分の準備をしている部分なのですね。 第8小節から何回も反復される音形は、 第7小節の2拍目の右手、 4拍目の左手に現れているものである点にも注意してください。 この第7小節は、 次の第8小節以降に延々と続く16分音符の 「助走」 としての効果を十分に持っています。
第8小節以降は楽譜に示したとおり、 第10小節を頂点として 右手が上昇下降する流れを 軸として構成されており、 雰囲気は「経過的」です。 16分音符と8分音符の対比は、 主題と対旋律をある程度 「展開」 するという意図が込められています。 嬉遊部最後の1小節(第11小節)は、 それまでの部分の左右転回ですね。 ここでは右手にも一瞬16分音符が現れ、 主題冒頭のリズムをほのめかしています。
で、次は第2呈示部となるわけですが、 今回は前置きがやたら長かったせいで(^^;) 大分テキストの量も多くなってきました。 あまり一度に大量に文章を書いて、 皆様のダウンロードに支障をきたすといけないので(笑) 一旦この辺で区切り、 一息つくことに致します。
※文中の楽譜は "MusicTime Deluxe for Windows 3.1 and 95"((C) 1996 Passport Designs Inc.)にて作成したものを ビットマップ化したものです。