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大解剖!(笑) インヴェンション第15番(2)

引き続き、インヴェンション第15番の大解剖です。 次は12小節からの第2部ですね。 どんどんいきますよ~(^-^)。

第2呈示部では、 再び主題と応答が現れます。 ただし調性は並行長調たるD-dur(ニ長調)です。 対比が見られるのは調だけではなく、 主題の登場する順番にも見られます。 第1呈示部では 「右手の主題-左手の応答」 が対になっていたのですが、 ここでは 「左手の主題(12~13小節)-右手の応答(14~15小節)」 が対になっています。

注目すべきは 12小節の右手にみられる 「八分休符+十六分休符」です。 全曲中でこれほど長い休符は曲冒頭の3小節目とここだけです。 バッハのフーガでは「休符」とか「声部の減少」とかは、 しばしば新たな部分の開始を意味します。 この曲の場合も同様に考えることができ、 比較的長い休符はまさに 後半部の開始を告げているサインだと言えます。

さて、 この第2呈示部につづく第2嬉遊部(16~17小節)は、 いろいろと注目すべき内容を含んでいます。 まずは、 その楽譜を示してみましょう。 ------- テキストブラウザご利用の方へ、以下では楽譜を画像データとして記載していますが、全てダウンロードできるようにしてあります。ダウンロードしたデータを画像表示プログラムなどでご覧いただければ、内容を把握することができます。-------

2nd episode (2-15-5.gif 6.33KB)

第2嬉遊部はわずか2小節。 左手が8分音符の連続、 右手が16分音符の連続という構造は第1嬉遊部と同じです。 第1嬉遊部の開始(第7小節)が、 直前の主題の終了部分と巧妙に結び付けられていたのと同様、 第2嬉遊部も、 前および後ろの主題部分とは密接に結び付けられています。 すなわち、 第16小節で展開される音形は 直前の主題の終了音形を受けており、 17小節で展開される音形は、 第18小節への対旋律へとつながっています。 相前後する部分の結びつきを緊密にする手法は、 曲を有機的に構成するための1つの手法で、 ベートーヴェンのピアノソナタなどにも受け継がれています。

さらに注目すべきはめまぐるしい転調です。 上に示した楽譜には一応の和音進行を簡単に示していますが、 あれよあれよという間に転調していきます。 頻繁な転調とともにめだっているのが、 16小節では右手に倚音(いおん,前打音,appogiature)的、 あるいは半音階的な動きです。 16小節の部分を8分音符に還元してみると、 次に示す楽譜の左側のようになります。 かなり複雑な、 半音階的な動きであることがわかります。

appogiature in the 2nd episode (2-15-5.gif 3.72KB)

こうした半音階的な動きは、 バッハの数々の名曲 -例えば、 平均律第1巻の24番のフーガ主題(楽譜右側の上)、 ロ短調ミサの「キリエ」の主題(楽譜右側の下)- と共通するもので、 深遠な感情の表現にしばしば用いられる アイテムなのです。

この16小節付近には、 バッハ自身によりスラーがつけられています。 バッハ自身が鍵盤曲でスラーの指定を 行っているというのは 実は意外に少ない。 こうしたときのスラーは単に音をつなげる指示であるというよりも、 むしろ、 この部分には 「ある特別な感情を込めて弾かなければならない」 という指示のことが多い。 以上のような意味で おそらくこの16小節付近の第2嬉遊部、 この曲のこれまでの部分とは 若干違った雰囲気の部分で あるように感じられます。 曲の頂点はどこになるか、 といわれたら、 恐らくここではないでしょうか。

第2嬉遊部が終わると最後の第3呈示部に入ります。 ここでは主調に復帰し、 相次いで主題が2回演奏されます。 2つ目のソプラノ主題はバスの主題の完了を待たずに提示され、 両者はほんのわずか重なっています。 曲の締めくくりを行いつつも 最後の盛り上がりを行う部分にもなっています。

最後のソプラノ主題およびそれに付随するコーダは、 以下の面で第1呈示部の再現を行う意味も併せ持っています。

(1)提示される主題は 最初のソプラノ主題と全く同じ音。 これに対する左手の伴奏も同じ動きです。 (楽譜を見るとわかるとおり、 1~2小節の伴奏の変奏形なのですね。)

bar 1-2 & 19-21(2-15-6-.gif 2.97KB)

(2)コーダには、 第1呈示部で2つ現れる応答の後ろの挿入部分と 同じ音形を用いています。 下に示す3段の楽譜のうち、 真中の段がコーダの部分ですが、 上段下段に示すように、 その動きは第1呈示部の音形(a)(b)の引用です。 特に21小節以降の、 (a)で示した音形を含む音形の動きは、 4小節後半の右手の動きとほとんど同じであり、 この両方の部分が 対応関係を持っていることを示しています。

Coda (2-15-7.gif 4.07KB)

以上で、 ざっとインヴェンション第15番を見てみました。 この曲は、 本格的な2声フーガの構造を持ち、 主題の旋律、 第2嬉遊部に見られる複雑な半音階的動きなど、 バッハのほかのジャンルの名曲への関連を 随所に感じさせます。 インヴェンションの締めくくりにふさわしい、 味わいぶかい佳曲だと思います。

※文中の楽譜は "MusicTime Deluxe for Windows 3.1 and 95"((C) 1996 Passport Designs Inc.)にて作成したものを ビットマップ化したものです。

(1999.Jun.12)

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