Basso Continuo's Music Page
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「くたばれ絶対音感」 や 「純正律、敗れたり!」 において、 ごくごく当然のように 「振動数比が簡単な2音は、きれいにハモる」 などなど書いてきました。 しかしなぜそうなのかということについて はあまり触れていませんでした。 そこで今回はちょっと基本に戻って 「なぜ振動数比の簡単な音はハモるのか?」 という根本に 迫ってみたいと思います・・・ というほど仰々しい物ではない・・・(^^;)。
「純音」 と言う単語、 ご存知でしょうか? 音は 「空気の振動」 なのですが、 純音はこの中で最も単純なもので、 いわば 「混じりけの無い音」 ということです。 「純音」の振動波形は正弦波(Sine wave)になります。
ここに示したのが「正弦波曲線(Sine curve)」です。
高校の数学で出てきますね(^^)。
純音とは、
振動波形がこの「正弦波」になっているような音です。
実際に我々の周囲に存在する音は一般に純音ではなく、
いろんな波形を持っています。
ただし、
音叉の音はこの「純音」に極めて近い波形です。
しかし、 いろんな波形を持った音も、 実は 「純音」 の和として表現することができるのです。 それが、 以下の定理です。
「弦や管の振動により発生した音は、
[実際の音と同じ振動数の純音]+[振動数2倍の純音]+[振動数3倍の純音]+[振動数4倍の純音]+・・・
という具合に、 振動数nの整数倍の 『純音の和』 として表現できる。」
上の式の最初の項を「基音」といい、 第2項-振動数2倍の純音-を「第2倍音」といい、 第3項-振動数3倍の純音-を「第3倍音」といいます。
・・・実はこれは数学で言うところの 「フーリエ級数展開」に他ならないのですが、 ここではあまり数学的な方面には突っ込まないことにします。 数学的な方面に突っ込みすぎて 我が知識の底の浅さをむざむざ露呈するという事態は 避けなければなりません・・・(爆)
例えば、ピアノやチェロでCの音 (ピアノの中央ドの2オクターブ下の音、 あるいは、 チェロのC線開放弦の音) を鳴らしたとします。 Cの音の振動数はおよそ65.5Hzなのですが、 このとき、振動数131(=65.5×2)Hz, 196.5(=65.5×3)Hz, 262(=65.5×4)Hz, ...の音が同時に発生するのです。 それぞれの倍音の振動数と音名を表にすると、 以下のようになります。
基音 | 第2倍音 | 第3倍音 | 第4倍音 | 第5倍音 | 第6倍音 | 第7倍音 | 第8倍音 | 第9倍音 |
65.5Hz | 131.0Hz | 196.5Hz | 262.0Hz | 327.5Hz | 393Hz | 458.5Hz | 524.0Hz | 589.5Hz |
C | c | g | c' | e' | g' | b(近似) | c'' | d'' |
また、Cの音に対する倍音を音符で示したのが下の楽譜です。
(黒い音符は近似音です)。
楽器でCの音を鳴らすと、
実際には以下のような音が混ざって鳴っているわけです。
(倍音は一般に高次のものほどその強さが弱くなります。
下の例では第7倍音以降の音を意識して聞き取ることは、
実際には困難なことが多いようです)
ここで、 基音と第2倍音はいわゆる「オクターブ」をなします。 また、 基音と第3倍音の音程はオクターブ+完全5度ですね。 第4,5,6倍音がいわゆる 「長3和音」 になっている点に注意してください。 長3和音は 「自然現象で発生する和音」 ということもできるのです。
第2倍音、 第3倍音、・・・ 以下、 それぞれの倍音の「強さ」は、音色によって異なります、 というよりは、 「音色を決めるのは各々の倍音の強さである」 ということができます。 倍音振動の強さが元々の音の波形を決定するのです。 (倍音の強さは数学で言うところ 「フーリエ係数」 に相当します。)
さて、 それでは、 振動数比の簡単な2音が 「ハモる」とはどういうことか考えてみます。 たとえば「完全5度」。cとgの音について、 それぞれの倍音列を見てみます。
この倍音列は、 第6倍音までの間に2つの音を共有しています。 倍音が共通するということは即ち 「音の響きが似通っている」 ということです。 従って、 完全5度は 「溶けあって」 聞こえるのではないかと考えられるのです。
完全8度(オクターブ)ではこの現象、 もっと顕著です。 下に示すように、 オクターブをなす2音の場合、 低いほうの音の倍音は、 高いほうの音の倍音をすべて含んでいます。
従って、 オクターブは極めて良く溶け合います。 2つの音が鳴っているという認識が困難なことさえあるわけです。
長3度についても試してみてください。 第6倍音までのうちに共通する倍音が1つ存在しています。 (低いほうの音の第5倍音と、 高いほうの音の第3倍音が同じです)
振動数比が複雑な「不協和音程」の場合、 こうはいきません。 たとえば、 「長2度」GとFを比較してみます。 長2度の振動数比は純正律で8:9、 もしくは9:10です。
かなり高次の倍音まで比較しているのですが、 一致する倍音はありません。 (Gの倍音列にf''の音があるように見えますが、 これは近似音であり、 Fの3オクターブ上の音とは一致しません)
このように、 「ハモる音程(協和音程)」では、 2つの音の間に低い次数の共通倍音が存在しますが、 「ハモらない音程(不協和音程)」では、 低い次数の共通倍音は存在しません。 さらにこのハモりが純正律的に実現した場合 (例えば、純正律の長3和音、 振動数比4:5:6の音を同時に鳴らした場合)、 この共通倍音は全く同じ音になります。 その結果、倍音が強調され、 きわめて豊かな響きが実現するのです。 純正律ではない場合には、 共通倍音といえども若干の「ずれ」が生まれ、 これが響きの「にごり」の原因になるのだと考えられます。
以上、 2つの音の「ハモり具合」とは、 実は共通倍音の有無や多少、 一致の具合と深い関係がある、 と言うお話でした。
※残念ながら(というか、当然ながら^^;) この話は私の発案ではなく、ドイツの音響学者ヘルムホルツ (Helmholtz) が考えたといわれる「音近親 (Klangverwandtschaft) 理論」の燒き直しです。 ヘルムホルツの音近親理論については、 私は「新音楽辞典 楽語」(音楽之友社,1977)で知りました。 おそらく、 ある程度の規模の音楽辞典なら 大抵記載されているような内容なのだろうと思います。
※なお、「倍音」、およびこれと非常に関係が深い「フーリエ級数」に関しては、「音色に関する数学的ハッタリ的考察-準備編-」もご覧ください。
(2006 June 03追記)