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私の鬱病と 音楽生活

ショッキングなタイトルに 驚かれた方もいるかも知れません。 実は現在私は「鬱病」にかかっています。 最近中高年の自殺などとからんでよく マスコミでも採り上げられるようになってきた あの精神病に、 私もやられたのです。 ピーク時には仕事を 通算30日以上休んでしまいました。 幸い、 ドクターのカウンセリングと投薬によって、 現在は 「鬱病の峠は超えた」 と感じます。 現在は、 実生活、 仕事の面では鬱病の影響はかなり軽減し、 何とか普通に生活出来ている状態です。 ところが、 音楽の嗜好に今なお深刻な影響を与えているのです。 今回はこの辺をちょっと述べてみたいと思います。

まず、 「鬱病」について・・・ 健常な人でもひょんな出来事で 心が憂鬱になることがありますが、 「鬱病」はそうした 「心の憂鬱な状態」 とは次元が異なります。 私が思うに、 「鬱病」 とは 「心身の体力、 特に精神的な体力が著しく欠乏した状態」 です。 例えば、 (これから示す数字は 私の感覚でのみ話をしています。 絶対的な物と 受け取らないでください) 健常な人の心身が充実した状態を 100とし、 健常な人が 心身共に著しく疲労した状態を 80とすると、 鬱病の場合、 これがおそらく 40以下に低下します。

私がドクターから 「鬱病」 の診断を受けたのは昨年 (1999年) 11月下旬でした。 それ以前から連続的に 「風邪の様な症状」 で仕事を休みがちになっていました。 実際、 精神的にかなりめげている状態であったと思います。 1999年12月には 「グローリアアンサンブル&クワイアー」 の本番がありましたが、 今から思うとかなり 無理を押しての出演であったような気がします。 演奏会自体はとても楽しい経験でしたが、 これ以降、 症状は 一層 ひどくなりました。 夜は不安感にさいなまれて 3,4時間、 ひどいときには2時間ほどしか 眠ることが出来ない。 午前1時や 2時まで布団の中で悶々として、 午前5時には目が覚めてしまうという生活です。 体調が悪く、 仕事を休んで 自宅で布団に横たわっていると、 たまらなく惨めな気分になり、 「ああ、 ここで手首のこの辺の動脈をちょっと切れば オレの命はこれまでなんだな」 とかいう思いがかすめることも 多々ありました。

鬱病の治療には 一旦入院して 根治するのが 一番効果的なのだそうですが、 生憎、 期末でかなり 大きな仕事を抱えていたため、 私はドクターとも相談した上で、 「仕事をしつつ治療する道」 を選択しました。 ある程度 「長期戦」 になるのを覚悟したわけです。

鬱病のピークはおそらく今年 (2000年) の正月から2月頃だったような 気がします。 掲示板の2月21日の記事で、 私は"I became a depressive." というタイトルの 文章をアップロードしています。

さて、 世の中には 「音楽療法」 というのがあります。 普通の人は 嫌なことや辛いことがあったときには 気分転換に音楽を 聴いたりして心を癒す、 というのがありますが、 あれをより 積極的に治療に生かそう、 という物だそうです。 ところが、 私の場合は もはや そういうレベルを超えていました。 耳があらゆる音樂を 拒否するのです。 無論、 自分が 楽器を演奏するなどと 言うのはとんでもない。 音樂に接することに 非常なストレスを 感じるようになりました。 職場の合唱団、 及びリコーダーアンサンブルに 所屬していたのですが、 相次いで活動休止状態に 突入しました。

「耳が音樂を拒否する状態」 の中で、 布団に横たわって 戸外の雀などのさえずり、 雨音などに 耳を傾けるとき、 この上ない 安らぎを感じました。 それ以外、 自分で 作曲した曲だけは どういう訳か 聴くのに 抵抗感がありませんでした。 また、 作曲行為自体も どういう訳か 継続可能でした。 (実は「ヘンデルの 主題に よる変奏曲」 はこういう状態の中で 誕生した曲です。 あの曲、 今更ながらよく作ったなぁ、 と思います。 第4, 第5, 第7変奏 の独特な和声はどうも 私の不安定な 精神状況を 反映しているようです。) これ以外の音樂は 聴くのすら 大変な苦痛でした。 2月半ばには知り合いの 出演する 合唱祭があり、 「義理」で 聴きに行ったのですが、 猛烈な疲労感と 吐き気を覚え、 途中退席して しまったほどです。

音樂鑑賞のほうは ・・・ 音楽療法ではバロック音楽などが良い、 と紹介されているようですが、 私の場合にかぎっていえば これには疑問符を打ちます。 どうやら、 私は音樂に対して右脳 (直感、 情緒的な部分をつかさどる部分) ではなく、 左脳 (論理的思考をつかさどる部分) を使ってアプローチしようとする 傾向があるようなのです。 音樂療法はどうやら右脳への刺激、 左脳の休息によって α波を出すことを 意図している物のようなので、 (参考サイト: "ARI World"の [音楽あれこれ] -[音楽療法] -[呉竹 英一先生 公開講座 No.1]) 私のような鑑賞態度では 全然役に立たないことに なってしまう。 楽譜を眺めている分には 平気なのですが、 いざCDをかけると うるさく感じて、 5分程度で 止めてしまいます。 おそらく鬱病 にかかる前には 大好きだった曲の大部分を、 今の私は 通して 聴くことが出来ないだろうと思います。 曲そのものは大好きなのです。 楽譜を眺めて自分を慰めている状況です。

現在(2000年6月)の私は、 投薬と 定期的な カウンセリングで かなり状況が改善しました。 仕事も 何とかこなせるようになってきましたし、 演奏活動の 方もそろりそろりと 再開しています。 具体的には、 4月末と6月頭に 演奏会に出演しました。 いずれも非常に内容の軽い、 小さな演奏会です。 不思議な物で、 自分で演奏する限りは以前ほど 抵抗感を感じなくなりました。 投薬治療が効いてきたのかも知れません。

「作曲編曲活動」の方は・・・ 結局、 「ヘンデルの 主題による 変奏曲」 を完成した時点で、 私の作編曲のエネルギーは 一旦枯渇してしまったようです。 新たな作曲・ 編曲にはしばらく 充電が必要か、 もしくは現在の 自分の心身を大幅に削る 「荒行」になるでしょう。 いまはある重要な 編曲ミッションを抱え、 これが うまくこなせるかどうかで 激しく悩んでいます。

「音楽鑑賞能力」のほうは ・・・ これも回復が著しく遅れています。 現在のほとんど唯一 音樂鑑賞可能なのは、 「ヘンデルの合奏協奏曲集のCD」 です。 これは 比較的私の耳に 抵抗無く入ってくるようです。 比較的最近購入したCDで、 まだそれほど聞き込んでいないのが 幸いしたようです。 また、 「ヘンデル」という作曲家がわりと 「おおざっぱ」 な作り方をするのも、 性にあっているようです。 ヘンデルの合奏協奏曲は、 心地よく右脳を刺激してくれるようです。 こういうとき 「バッハ」 は音樂の密度が高すぎて、 「軽く鑑賞して聞き流す」 には大変不向きです。 ひょっとすると 「テレマン」 なんかも良いかも知れませんが、 まだ試していません。 私のこれまでの 「コレクション」 の多くは、 バッハとベートーヴェンでしたが、 これらを安心して聴くことが出来るようになるには、 まだまだリハビリ期間を必要としそうです。 現在のところは 私の周辺にたくさんある クラシック音楽については、 「樂譜を眺めて脳裏に音をイメージする」 のが唯一の鑑賞手段です。 これ以上の行動 -実際の音樂を聴く行動- をとることは出来ません。 先ほどのヘンデルを例外として、 「音樂を聴く」という行為に 非常なストレスを感じます。

更に、 同じバロック音樂の 「コレルリ」--Arcangelo Corelli。 バロック音樂時代のイタリアの代表的な作曲家。 弦樂器のための数々の名曲を残している。 「合奏協奏曲」の創始者としても有名-- の鑑賞も試してみたのですが、 これは 意外にきつかった。 「ヘンデルの合奏協奏曲は コレルリのスタイルに直接影響を受けている」 と言われているだけに、 コレルリの合奏協奏曲は ヘンデルよりも素朴だろう、 と見たのが 甘かったようです。 コレルリを 数曲聴いた後、 まるで 発作のような精神不安定状態に 陥ってしまったのです。 現在の私の 脆弱な精神状態には コレルリはハードルが高すぎるようです。 結局、 コレルリの合奏協奏曲は、 私にはヘンデルよりもむしろ 密度の 高い 音樂で あるように感じられたのです。 (これはこれで興味深いテーマだと思います、 が、 今はそのことについて論じるのは 止めにします。)

というわけで、 私の「鬱病」は現在のところ 確かに快復傾向なのですが、 音樂活動・ 音樂の嗜好には 依然として重大な影響を与えています。 「音樂」は未だ 「私の心身に負担を強いる面がある」、 と感じます。 とはいっても、 ちまたには音樂が溢れていますし、 私自身音樂のない生活は考えられないのです。 この相反する状況を克服するうえで、 「心身をだましだまし 『音樂』 とつきあう」 ということが、 現在の私には 必要なようです。

※ 上記はあくまで2000年6月時点の状況、感想、気分を記した物です。現在(2006年6月)の私は鬱病下から脱したと考えられるでしょう。今は完全に職場に復帰し、ふつうに日常生活を過ごしています。

(2006.June.30)

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